
国境離島で新卒協力隊から起業。「人と野生動物の関係性」と向き合い続けた10年間
2026年10月更新
現在募集中の地域おこし協力隊情報
長崎県内の地域おこし協力隊に関心をお持ちの方へ。
弊社が自治体と伴走し、募集企画や受け入れ体制の設計などを支援している募集プロジェクトを紹介します。
地域のリアルやミッションの背景まで深く取材・把握している注目のプロジェクトです。
長崎県にある森林面積約90%の国境離島・対馬。豊かな自然に恵まれる反面、イノシシ・シカによる獣害が問題となっています。人口約25,000人(2025年9月1日時点推計)に対し、シカの生息数はなんと約41,700頭(2020年推計)とされています。
齊藤ももこさんは、対馬の野生動物に魅せられ大学卒後と同時に地域おこし協力隊に着任。任期中に市営の解体処理工場のオープンを経験した後、一般社団法人daidai(だいだい)を設立しました。
屈託のない笑顔が印象的な齊藤さんですが、その事業活動には一貫した情熱とバイタリティが随所に見られます。イノシシ・シカの資源活用を通じて、地域の課題解決に向き合い続けた約10年間についてお話をうかがいました。

森林面積約90%の対馬。展望所からは島の豊かな自然が見て取れる<齊藤ももこさんプロフィール>
福岡県北九州市出身。日本大学生物資源科学部獣医学科に在籍中に対馬の獣害問題と出会う。
2013年4月~2016年3月 対馬市地域おこし協力隊として活動。「有害鳥獣ビジネスコーディネーター」として被害対策及び捕獲したイノシシ・シカの資源活用を推進。
2016年1月~ 一般社団法人daidaiを設立後、鳥獣被害対策、イノシシ・シカの資源活用、教育・普及啓発に関する事業を展開中
動物が好きで対馬へ。運命を感じるタイミングで協力隊に応募
――対馬との出会いについて教えてください。
野生動物に関わる活動がしたくて大学で学んでいました。環境省の施設が対馬にあって、インターンシップでそこに初めてきたのがきっかけです。最初は動物の「保全」というテーマで来たのですが、実際島民の生の声を聞いてギャップを感じました。ツシマヤマネコの保全よりも、イノシシやシカの被害で地域の方が困っていることを知ったんです。自分に何かできることはないかと通い続けるうちに、この島がすごく好きになりました。
――対馬市の協力隊に応募を決めた理由は?
ちょうど大学卒業のタイミングで対馬市がイノシシ・シカに関する地域おこし協力隊を募集していたんです。しかも協力隊の募集をかけた張本人が、私がインターンで環境省の施設に行ったときにお世話になった職員さんで。なんだか何かが導いてくれているような気がして、これは何かのご縁かもしれないと思い応募を決意しました。
――運命を感じるタイミングですね。協力隊に着任したときから、対馬に定住するイメージは持っていましたか?
全く考えてなかったですね(笑)社会人1年目だったので、自分がどういう専門性があるか、何ができるかもわからなかったので最初から定住のイメージは湧いていませんでした。
「黒船」と呼ばれた協力隊時代。役場職員のサポートが追い風に
――協力隊としてのミッションを教えてください。
当時のミッションは「有害鳥獣ビジネスコーディネーター」という名前がついていて、経済活動を通じて獣害対策を促進するような体制を作ることでした。当時役場では「黒船が来たぞ」って言われてましたね…!役場に対して「開国して~!」みたいな雰囲気だったんだと思います(笑)それでもやっぱり、現場で必要とされていることをちゃんとやりたかったんです。
――齊藤さんらしさ、そして新卒のパワーを感じます(笑)協力隊としては具体的にどのような活動をされたのですか?
1年目に解体処理工場を作り、2年目に職員を雇って育成して商品開発、3年目にその活動を広げてジビエ肉を給食に出したりとステップを踏んでいきました。振り返ってみるとミッションに近いことをやれたのかな、と思います。

協力隊時代、被害対策現場の様子――協力隊時代を振り返ってみて何か感じることはありますか?
ラッキーだったのは素晴らしい上司に恵まれたことですね。「人を雇うということはどういうことか」「3年経って給料がなくなった後にどう食べていけるか」を真剣に考えてくれました。「行政は予算がないとできないことが多いから」と早めに動いてくれたりして。本当に素晴らしい人たちに恵まれました。
直面した狩猟業の現実。「よくそんな仕事ができるね」を「ありがとう」に変えたい
――当初、齊藤さんと対馬の接点は動物の「保全」だったと思いますが、「活用」に取り組もうと思った経緯を教えてください。
例えばツシマヤマネコの保全をしようと思っても、イノシシ・シカの被害がひどいと、そちらに住民の意識や能力が向きにくいんです。私自身は動物が大好きですが、動物に対して「憎い」とか「怖い」という負の感情を抱いている人がいるのも事実です。そういった状況は私自身も悲しいし、住んでいる人も楽しくない。その問題に自分なりに向き合おうと思いました。
――実際のところ、獣害はひどいのでしょうか?
本当にひどいです。直接農作物に影響を与えるイノシシが被害としては分かりやすいですが、シカの場合は山の植生を破壊することで最終的に海の生態系に影響を与えます。それぞれ被害の質が違うんです。

ツシマジカはかつて県指定の天然記念物だったが、個体数が増え被害が拡大したことで指定が解除された――捕獲・活用を推進するにあたって、大変だと感じたことはありますか?
いざ捕獲が必要だと思っても、以前は今よりも捕獲に対してネガティブに捉える風潮があって、「生き物を殺すと呪われる」「よくそんな仕事できるね」と言われることもありました。
――捕獲そのものは必要な仕事だけど、住民の賛同は得られにくい。難しい問題です。
ハンターさんの高齢化が進んでいるなかで、これから先は捕獲者を維持していかないといけません。どちらにせよ捕獲をするのであれば、「ありがとう」と感謝されながら仕事ができたほうが絶対に幸せだと思います。
――風潮そのものと向き合うのはかなり大変そうです。
捕獲という行為だけではポジティブな転換が難しいので、「お肉になってこんなに美味しいんだったら捕ろうよ」「鹿の皮でこんなかわいいモノが作れるなら、いいんじゃない」というようなポジティブな入口があれば、捕獲という行為自体を前向きに捉えて応援する気持ちになれるんじゃないかと思っています。

カラフルな素材が並ぶ「daidai Shop&Gallery」。財布やキーホルダーの雑貨を製作・販売している任期終了間際に待っていた運命的な出会い
――任期3年間の活動は順調にステップアップしているように感じますが、やはり「任期後の生業づくり」は大変だったかと思います。任期中に起業に至った経緯を教えてもらえますか?
任期3年目の冬に、同じ対馬市の協力隊をしている人の友人が対馬に遊びに来て、会食をする機会がありました。実はその時にやってきた友人というのが今の主人なんです。当時から山梨県富士吉田市で「富士吉田みんなの貯金箱財団」という協力隊の伴走支援をする会社を経営していました。私と同じ時期に入った協力隊の人たちが、ゲストハウスを運営したり子どもたちのための教育の会社を立ち上げたりしている話を聞いて、自分はあと数か月で退任なのに何もできていないと焦りを感じました。
――任期残り僅かの時期、またも転換期にすごい出会いですね!そこから具体的にどういったアクションを?
市長が「よし、富士吉田市に視察に行くぞ!」と計画してくれて、みんなで現地を見に行きました。そこで(現在の)主人が事業計画の書き方や収支予算の組み方など、親身になってアドバイスをくれて、その後も相談に乗ってもらいました。県のアドバイザー派遣事業を活用してみっちり相談に乗ってもらい、具体的に「何をやりたいのか」から掘り下げてもらったんです。
――起業したのは任期終了のどれくらい前だったのですか?
任期終了の2ヶ月前で、本当にドタバタでしたね(笑)主人との出会いがなかったら、そのタイミングで起業できていなかったと思います。

仲間たちとの1枚。左から2番目のメガネをかけている方がご主人――一般社団法人という形で会社を設立した理由は?
いくつか理由があります。まず設立費用が抑えられたこと。それから、株主の存在や株のことなど、当時の私には株式会社の仕組みをよく理解できていなかったこと。それと、社会的貢献度の高い事業をしているという自負があるので、株式会社よりも一般社団のほうが公益性が高い印象があります。将来的に助成金申請をする可能性を考えても、社団法人の方が申請できる範囲が広いと思いました。
「人と野生動物の関係性を再構築する。」 理念を具現化するdaidaiの事業活動
――社名の「daidai」にはどんな意味が込められているのですか?
当時、会社を設立するには最低理事が2人必要で、誰に協力してもらおうかと考えていたとき、対馬の家具屋さん「kiiro(きいろ)」の阿比留(あびる)さんという方に相談しました。私が協力隊時代からよく相談に乗ってもらっていた方です。彼に理事になってもらいたいと頼んだとき、「ももこ」の桃色と「kiiro」さんの黄色を混ぜるとだいだい色になるね、と話をしたのがきっかけです。果物の「橙(だいだい)」は実をつけたまま年を越すという縁起の良さもあるし、ハンターさんの服の色もだいだい色が多いです。島の暮らしが「代々」続きますように…という願いも込められています。
――色んな意味が込められた社名なんですね。現在はどのような事業をされているんですか?
スーパーでのジビエ肉の販売、飲食店への卸、ハンバーガー等のテイクアウト品販売、レザークラフト製品の製作・販売、企業研修や学校向けの体験プログラム等々、試行錯誤しながらやっています。2023年に新しい加工場をつくって、2024年にはその加工場直結の直売所をオープンしました。

加工場とジビエ肉・飲食テイクアウトの販売機能が一体となった施設「対馬もみじぼたん」――搬入・解体・加工・販売がワンストップでできるんですね。ジビエ加工の現場を生で見れる機会は貴重なので、教育の場としてもピッタリかもしれません。
最近は、サステナビリティに関心のある企業の研修や、高校・大学のゼミ合宿も受け入れています。イノシシ・シカの問題を通じて環境問題や地域課題を考えるプログラムは、教育的な価値も高いと感じています。
――daidaiの活動目的は明文化されているのでしょうか。
daidaiの理念は「人と野生動物の関係性を再構築する」です。会社のロゴには二つの丸があるのですが、一つが人間、もう一つが野生動物を表しています。私は動物が大好きなので近くにいても嬉しいですが、少し距離を置きたい人もいれば、全く接したくない人もいますよね。

理念を分かりやすく表すdaidaiのロゴ――まさに理念を表すロゴですね。動物との距離に色んな選択肢があるのがいいですね。
その人に合った距離感で、お互いが嫌な思いをすることなく生きていけたら幸せだと思っています。レザー製品になるぐらいの距離感がちょうど良い人もいれば、お肉として食べるぐらいの距離が良い人もいると思うので。
起業から約10年。うれしい瞬間あり、腹を括る瞬間あり
――起業から10年近く経ちましたが、成果や手応えを感じる瞬間はありますか?
最近はすごくうれしい瞬間がいっぱいです。若いハンターさんが増えてきたことは大きな変化ですね。私が協力隊として着任した当時、25歳の私が最年少で、70%以上が65歳以上の方でした。この10年間で20~40代の狩猟免許取得者が多くなってきたのは本当にうれしいです。

ベテランが若手に経験を伝える好循環が生まれている(対馬もみじぼたんの解体工場にて)――若い人が増えると島の将来のためにも良い影響がありそうです。
「捕獲」を応援する雰囲気も以前よりもできてきたと感じます。昔は「呪われるよ」と言われることもありましたが、今ではそういう話はほとんど聞かなくなりました。学校関係からも授業で話してほしいと声をかけていただくようになり、教育が進んできたのかなと感じます。
――約10年間会社を経営してきた中で、転換期だと感じたことはありますか?
色んな事情があって、市が運営する解体処理工場の継続が難しくなったときですね。給食のジビエ提供もやっと定着してきたのに、ここでやめたらまた元に戻ってしまう。だけど「私が自分でリスクを負ってでもやる!」と決めたらそれって解決するんですよね。スタッフにも相談してみたら、ついていきたいと言ってくれたのも後押しとなりました。若いインターンの学生も飛び込んできてくれて、本当に人材に恵まれていると感じています。
「続けること」が何より大事。100年後に続く体制づくりを目指す
――約10年間、daidaiを運営して課題に感じることはありますか?
獣害の被害を根本的に減らせていないことが最大の課題ですね。捕獲頭数は右肩上がりに増えているのですが、今のやり方では頭打ちです。現在の捕獲者の半分が60代以上と言われる中で、彼らの引退が進むと捕獲数も減っていくと思います。10年後、20年後、100年後を見据えた体制づくりが必要です。
――将来のための体制づくり。どこの地域でも共通の課題なのかもしれません。
ひとつの企業としても、継続のための体制づくりを試行錯誤しています。最近スタッフが増えて社員4名とアルバイト1名の体制になったのですが、実はもともと人員を増やすことは考えてなくて。ただ、運命論者じゃないですけど、「設立10年という節目」に採用の問い合わせがあったのは何か意味があるのかなと思って採用を決めたんです。生き抜いていくための体制をどう作っていくかを考えています。
――「ジビエ肉の加工販売だけ」でビジネスモデルとして成立させられるのでしょうか。
イノシシ・シカのお肉を販売するだけで生計を立てようとすると、単価を上げるか、量をさばくしかありません。でも量をさばくビジネスモデルだと、本来は減って欲しい生き物を資源として必要とすることになります。被害がなければいいのに、ビジネスモデルのために量が必要になるのは矛盾していますよね。だから行政からの委託事業も含め、体験プログラムやレザークラフトなど、色んな事業展開が欠かせません。
――最後に、daidaiと齊藤さんの今後について一言お願いします。
まずは2026年1月に迎える創業10周年をしっかり乗り切ることです。よく10年後の企業生存率がかなり低いっていう話があるじゃないですか。あれって結局「途中で辞めちゃう」のが理由なんだと思います。経済や体調的な問題もあるとは思うんですが、やっぱり成果が出るまで「続けること」が何より大事なんだなと感じています。
人生の岐路で「縁」に恵まれたのは偶然?
対馬の野生動物問題に取り組んで10年以上。齊藤さんの取り組みは単なる害獣駆除ではなく、着実に地域の人と野生動物の新しい関係性を再構築する取り組みになっています。地域で情熱を持ちながら、自身の仕事と暮らしをつくる。齊藤さんの仕事への向き合い方を通じ、協力隊活動の原点・本質のようなものを感じることができました。
そして、取材を終えて何より印象深いのは齊藤さん自身のお人柄。協力隊着任時は職員さんとの縁、起業前にはご主人との出会い、起業後の転換期には社員の支えがあったからこそ、今の齊藤さんの人生とdaidaiがあります。いずれも人生の岐路で出会った縁。どれも「偶然」の出来事かもしれませんが、それを引き寄せたのは齊藤さんが持つ真っ直ぐな人柄なのかもしれません。
自治体と弊社が二人三脚で設計した、安心の協力隊募集プロジェクト
地域おこし協力隊への挑戦を検討している方へ
今回ご紹介した記事のように、地域で活躍するためには「地域の受け入れ体制」や「本音のコミュニケーション」が欠かせません。
弊社では、着任後のミスマッチを防ぐため、自治体に伴走して募集ミッションや受け入れ環境の設計からサポートしています。
現在、その取り組みの一環として各自治体で新たな仲間を募集中です。受け入れ体制がしっかり整った環境で挑戦したい方は、ぜひ募集記事をご覧ください。
Consulting Desk
相談受付
隊員や自治体の方からの活動におけるお悩み相談などはこちら
Contact
お問い合わせ
取材やお仕事の依頼などのお問い合わせはこちら